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Story of Accompaniment

〜承前〜
〜 間奏曲 ZERO 〜


〜 承 前 〜

太陽が傾きつつある大地に、乾いた風が吹きすさぶ。心なしか、血の臭いが含まれているようだ。
アフリカ西部、エチオピアに次いで古い独立国・リベリア。
その地に、再び足を踏み入れた彼を待ち受けていたのは、陰惨極まる内戦であった。
いくつもの武装勢力がその覇を競うかのように、いつ果てるとも知れない戦闘と殺戮を繰り返していた。
彼の再訪の目的は、敗北感を克服するための修行であったが、幼少からの付き合いである師とは音信不通状態にあり、情勢が情勢だけに修行もままならない。ましてや、目の前で人が殺されようとしているのを黙って見過ごせるような人間ではない。
都合、行く先々での局地的な戦闘を収める──といっても、重火器を破壊し、戦闘員を昏倒させるだけであったが──日々が続いていた。しかし、拡大する戦火を思えば、それは大海を手でせくような行為に思えた。
彼は、自分より幼いであろう傷付き倒れた子供を抱きかかえて呟(つぶや)く。
「俺に……戦いを止める実力があれば……」
彼はかつて味わった、完膚なきまでに叩きのめされた敗北を思い出す。今でも、自分の首が切断されるイメージが鮮烈に蘇ってくる。


「……!!」
苦渋の記憶は、突発的な爆発音とともにかき消された。
遠くから、断続的な銃声が聞こえてくる。
間髪おかず、彼は音のした場所へと駆け出していた。巨大な立方体のような荷物を大事そうに背負ったままで。
駆けつけた先は、金網に囲まれた武装勢力の拠点である。…だったという方が正確であろうか。
何台かのジープが横倒しになり、煙をあげている。
そしてその周辺には、鋭い刃物で切り刻まれた兵士たちの惨殺死体が横たわっていた。
この一方的な殺戮を繰り広げているのは、十数体の異形の群れであった。長刀を持ち、兜を被った姿は古代の兵士のようであったが、腕や脚が極端に細い。目を凝らせば、それらが全て骨であることが分かる。いわば、動く骸骨、髑髏の兵士だ。ただし、その骨格は人間にも、他のいかなる動物にも似ていない。
「なんなんだこれは……またヤツの幻覚じゃないだろうなぁ……」
現実ではありえない光景に、ただ冗談交じりの苦笑いをするしかなかった。
コンクリートの建物の中から、生き残った兵士たちが自動小銃を撃ち続けているが、対象はさしたるダメージを受けた様子もなく歩みを進め、最初の数体が間近に迫る。兵士たちの顔が、絶望に歪む。
何かの大腿骨を切り出して作られた鋭い刀が振りかぶられる。
次の瞬間、彼の身体が大きく跳躍した。同時に、立方体の箱から輝く何かが射出され、空中で肩へ、腕へ、脚へ……全身を覆う。かつてこの地で、厳しい修行に耐えて手に入れた、彼自身の鎧──聖衣(クロス)である。
「オーケーッ! パーフェクト!」
彼は着地するまもなく、そのまま一回転し、骸骨の兵士たちへ遠心力を利用した強烈な蹴りを見舞う。
数体の骸骨が崩れ落ちた。
さらに蹴った力で反転し、すぐさま後列の兵士をなぎ倒す。
まるで相手の動きを全て読み取ったような正確な攻撃だった。
と、残りの骸骨たちが一斉に彼の方へと踵を返す。
一糸の乱れもない統率のとれた動きだ。いや、誰かに操られ、予め計算された動きというべきか。
骨の刀が、次々と振り下ろされる。それらをかわし、代わりに反撃の拳を見舞う。頭蓋が陥没し、刀にヒビが入る。全く歯が立たなかった小火器とは対象的に、素手とは思えないダメージを与えている。
その一方で、彼は焦りを感じていた。繰り出した拳は、対象を確実に破壊しているものの、生命のない人形であるが故に、人間なら致命傷になる攻撃も、ものともせず立ち向かってくるのだ。
「くっ、単調な打撃だけでは、いずれこちらが劣勢になるか」
いつしか、骸骨兵に囲まれてしまっている。
『包囲網を打破するためには……』
師に教わった戦法・戦術の数々が、脳裏に浮かんでは消える。
『相手の弱点を見定め、そこに全小宇宙を集中し放出するのだ! 獲物を狩る狼となれ!!!!』
頭に響く師匠の声が、自分を鼓舞してくれる。その大恩ある師のためにも、今の自分を超えなければならない。
「全員が同じ個体だ。リーダーはいない。ならば…」
損傷の多い一体をターゲットに定め、一番のウイーク・ポイントを探る。鋭い双眸は、獲物を狩る狼に似ていた。
「兜と鎧をつなぐ、脆い一点。そこに賭ける!」
身体を低く屈め、駆け出した。すれ違い様に、頚椎の間に鋭い手刀を叩き込む。
「見よ!これが悪を切り裂く聖闘士の剣だ!!!!!」
クウォォーン。
その速度は音速を超えた。真空の層が骸骨兵の頭を吹き飛ばすとともに、小規模な衝撃波(ソニック・ブーム)を発生させる。
自分の中にある、越えられない壁を越えた一瞬だった。
ガタリ。
頭部を失った一体が崩れ落ちるや、全身が粉砕し、たちまち灰と化した。
「…これだ。これが俺の追い求めていた技だ」
彼は、沸きあがってきた小宇宙(コスモ)の力に打ち震える。そして、ようやく気付いたのであった。
この地獄のような戦場こそが、自分にとっての修行場に他ならないことを。
無駄な努力かもしれない。だが、やれるだけはやってみる。彼の心に、決意が芽生えた。
「あいつらも同じように戦っているんだ。……アテナよ、オレにも力と勇気を!!」
転進し、動きの乱れた骸骨たちに、次なる太刀を加える。
生き残った兵士たちは、眼前で繰り広げられる光景を呆然と見つめていた。
「あれは…何者だ?」
既に日は落ちている。月明かりの下、輝く鎧をまとった男と、骸骨の群れが影絵人形のように踊り続けていた。
クウォーン。ウォォーン。オォーン。
音速の手刀が生み出す真空波が、骸骨兵を次々と切り刻む。
「月に、吼えている…」
狂った獣のように、迫り来るもの全てを牙の餌食にしていく。もはやそこには構えも戦闘スタイルもなく、ひたすら破壊衝動に突き動かされるだけの、原始的な戦いがあった。
「人狼(ルー・ガルー)だ……」
──この後、血の臭いのする場所に現れるという「人狼」の噂が、リベリアの民兵の中でまことしやかに囁かれることになる。


影が一体一体と消えてゆく。最後に立っていたのは、満身創痍のリベリアの狼(リュカオン)だった。
骸骨の兵士は、すべて灰塵と帰した。その跡には、巨大な牙のようなものが散らばっている。これだけが灰にならなかったようである。大きさでは、恐竜の大型肉食獣のそれと同じぐらいはあるだろう。
「古代ギリシア文字か」
彼は、そこに描かれた装飾を発見する。
聖闘士(セイント)にとって、古代ギリシア語は母国語も同然である。だがそこに書かれているのは、単語を組み合わせた、これまでに聞いたことのない言葉だった。
「“竜の切歯”…いったい何を意味している?」


これより一ヵ月後、彼は同時期に旅立った仲間たちから、口々に骸骨兵士との遭遇を聞く。それは、世界各地の紛争地域に現れているという。
──何かが、起こりつつあった。